ろかそんな理由のない金は受け取れぬと、ヒステリックに拒み続けていたのに、まあ、まあと無理に渡されたのだから、彼女は腹を立てていた。しかし、そうした佐古のやり方も、もしこれが教養のある人間がやったことだったなら、彼女のなかにある教養がそれに反撥したことであろうが、佐古のような人間がやったのであってみれば、彼女も顔を赧らめることが少しで済んだ。こういう下卑た人間の前では、女というものは、異国人の前に於けるように、いくらか羞恥心を忘れるものであろうか。ともあれ、彼女は佐古のやり方にだんだん馴れて来て、そんなに腹も立てなくなった。むしろ佐古をさげすみ、微笑を以て佐古の勧誘の言葉をきくようになった。佐古は遂に成功した。
二ヵ月にわたる口説き落しの努力が報いられたので、さすがの佐古も余程嬉しかったと見えて、自祝の意味もあり、多鶴子がいよいよ「オリンピア」に現れる晩、それは昨夜だったが、燕尾服を着用したのである。おまけに佐古はこともあろうに、多鶴子とおそろいの真紅の薔薇を、燕尾服の胸にぶら下げたのである。しかし、誰もこれを莫迦莫迦しいこととも思わなかった。いや、注意すらしなかった。人々は美しい村口
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