ながら、顔にかかる雪を冷たいと思った。

    第二章

      一

 東洋新報の編輯長はいつになく機嫌がわるかった。
 この人には子供が十人もあり、最近も五十六の年でありながら妻君に双生児を生ませたということである。二代目春団治に似てひらめのように下ぶくれしたこの人の顔はとぼけた大阪弁が似合っていた。めったに社員を叱ったことがなく、たとえばタイピストなどが仕事の上でひどい失敗をやっても、「もうこんなへま[#「へま」に傍点]やりなや。なんしょ、わてはあんたに肩入れしてるのやよって、叱りとうても叱られへんがな」と、冗談口を敲くぐらいのものだった。誰からも親しまれ、この人の怒った顔を見たこともない社員の方が多かった。この人の顔から機嫌のわるい表情を想像するのは余程困難なのである。
 今日もはじめのうちは、編輯長が機嫌がわるいなどとは誰も気がつかなかった。口をとがらして、しきりにぶつぶつ言いながら編輯長室のなかを歩きまわっているのが、硝子扉ごしに見られたが、まさかそれが怒りを爆発させないために、必死の努力をはらっているのだなどとは、気づかなかった。周章て者は、編輯長が口笛の練習をして
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