賃を、安二郎の言うままに渡して来たことを、お君はちょっと後悔した。
(内緒で銭を蓄めんならん)長い睫毛のうしろで綺麗な眼の玉をくるりくるりまわしながら、針箱の抽出へこっそり隠すべき一円紙幣や五十銭銀貨を頭に描いた。(オーバーてなんぼ程するのやろか)
しかし、安二郎が声を掛けたのでお君はその思案を中絶しなければならなかった。そして、白い炬燵になった。
豹一は二階で長い欠伸をしていた。精も張もない長い欠伸を虚ろに吐き出している自分がさすがに情けなく、乱暴に洋服を脱ぎ捨てた。そして、蒲団のなかへもぐり込んだ。炬燵が入れてあった。ふっと温いものが足から眼に来た。その拍子に、母親に返辞一つしなかった自分の態度がチリチリ後悔された。
失業したときかすのがいやで、わざと口を利かなかったのだとは、この際良い加減な弁解だった。つまりは、理由もなく口を利く気がしなかったのだ。今日にはじまったことではない。日頃から豹一は安二郎のいる前では母親につとめて口利かず、そんな習慣が出来てしまっていることをひそかに詫びる気持をもちながら、どうすることも出来なかった。そのたび、何か済まない、済まないと思うのだった
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