て取るより仕方がないと、安二郎は覚悟を決めた。しかし、お君は欺せても、豹一の眼はいまいましいほど鋭い。
「えらい冷え込んで来ましたな。炭つぎまひょか」お君が言った。
「なに言うねん。もったいない。きょう日炭一俵なんぼする思てるねん」
 安二郎は痔をわずらっているので、電気座蒲団を使っている。その電気代がたまったものではない。尻に焼けつく思いがするのだ。それを想えば、この上灰にしかならぬ高価い炭をうかうかと使うてなるものか。
(寒いといえば目茶苦茶に炭をつぎやがるし、暑ければ暑いで、目茶苦茶に行水しやがるし、どだいこのおなごの贅沢にも困ったもんや)
 行水をするとき、お君は相変らず何度も水を浴びた。湯気の吹き出た白い体にサッと水が咆り掛って、弾み切った肢体がすくっと立つ――そのなまめかしさを安二郎はたびたびうっとりと愉しむのだったが、やはり、消費される水のことを想えば胸が痛むのだった。水ならまだしも、炭と来てはまるで紙幣を焼いているようなものだ。僅かにお君の肌のほてるような温もりが安二郎の悲しい心を慰めるのだった。寒中炬燵なしでどうにか凌げるからだった。さすがに老齢で、足はチリチリと冷え
前へ 次へ
全333ページ中174ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング