膿症らしい。(随分威勢のあがらぬ与太者じゃないか)豹一はその男を小馬鹿にしたくなった。男は洟をかんだあとの紙を小さく畳んで袂にいれると、鼻をクスンクスンさせながら、「随いて来い」と、言った。豹一は黙ってうなずいた。
 男は御堂筋をナンバの方へ歩きだした。ぞろりと着流しの上へ総絞りの兵児帯を結んだ男の恰好はいかにもちゃちな与太者めいていたが、歩を移すたびにその結び目が尻の上で揺れるので、うしろから見て豹一はふとおかしくなった。女のような大きな尻だった。
 御堂筋から南海通の方へ折れて行った。黙々として歩きながら、豹一はどうした訳か気持が些かも殺気立って来ないのに弱った。
 男は振り向いた。そして、
「来くされ!」はき出すように言った。
 南海通の漫才小屋の細長い路次をはいって行った。二人並んで歩けないほど狭かった。弥生座の裏手あたりまで来て、男は立ち止った。そして洟をかんだ。それが済むとねちねちした口調で言った。
「おい! お前逃げもせんと、よう随いて来たな。ええ度胸や」
「そうかね」豹一は四十男のような口を利いた。男はちょっと考えて、
「ええ度胸かなんか知らんけど、生意気な真似しやがる
前へ 次へ
全333ページ中168ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング