いた。豹一があまり早く手を離したので、莫迦にされたと思ったのである。そんな不満な表情を見れば、豹一のことだから、嫌われたのだと早合点して、もう一度握りかえさねばと、思い直したことであろう。――しかし、もっけの倖いには、豹一はそんな無駄なことをせずに済んだ。
 銀紙の玉を投げた男がいきなり傍によって来たからである。男の手が女を退けるまえに、女は傍を離れた。その時、まるでわざとのようにルンバの曲がやんだ。レコードを仕かえるまで、少し間があった。
「あんさんとは今日こんお初にござんす……」案の定、わざとらしいはったりの仁義を掛けて来た。鼻に掛った声だった。「……野郎若輩ながら、軒下三寸を借りうけましての仁義失礼さんにござんす……」そうして、男は聴馴れぬ調子でぺらぺら喋り立てたが、再び電気蓄音機が鳴り出したので、はっきり聴きとれなかった。曲は「赤い翼」。豹一は自分が案外落着いているのを嬉しく思った。
「表へ出くされ!」柄のわるい妙な大阪訛で男がいった。これは聴き洩さなかった。聴き洩すと、恥になる。豹一は伝票を掴んで立ち上った。
 勘定を払って表へ出ると、男はしきりに洟をかみながら待っていた。蓄
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