豹一はそれを感じた。女の手に急に力がはいった。それも感じた。しかし、豹一は女の顔をよう見なかった。見れば、うんざりしたところだ。女はびっくりして、随分頓間な顔をしていたからである。しかし、それも豹一のせいだ。いきなり握る――のは良いとしても、それはまるで掴むといった方が適しいほど味もそっ気もない乱暴な握り方だった。酔っぱらいでも、少し相手が女だということは、勘定に入れている筈だ。少くとも握った瞬間に、妙な骨の音なぞしない。しかし、豹一は成功の喜びに酔うていた。(おれは衆人環視のなかで此の女をものにしたのだ!)
義務を果してしまえば、もう用のなくなった女の手を、豹一はいきなり離してしまった。他愛もないことだが、豹一にとっては、女をものにするという欲望は、この程度の簡単なことで満足されるのだった。二十歳の年頃にしては、少し慾が無さすぎるかも知れない。手を握るという義務を果せば、もうあと用事はなく、二度と会うこともあるまいなどと、まるで昆虫のようなあっけ無さである。もっとも、もし豹一がそこで女の顔を見れば、為すべきことが未だ少し残っていると思ったかも知れない。――女はぷっとふくれた顔をして
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