なかった。
「えらい待たしよりまんな」
 長髪の男がぼやいた[#「ぼやいた」に傍点]ので、豹一ははじめて、活気づいた。
(こんなに待たされるというのはお前らしい運命だぞ!)
 何に向ってか分らぬそんな敵愾心めいたものが出て来て、眠気が消えてしまった。しかも、未だそれより一時間も待たされたので、豹一はすっかり腹を立ててしまった。呼びに来た少女の給仕が豹一の表情を見てびっくりした程であった。
(こんなに腹を立てていては、口頭試問の成績は悪いに決っている)さすがに自分にもそう言い聴かせるぐらいだった。
「お先に」
 長髪の男へそう挨拶して、少女のあとに随いて廊下へ出た。廊下の突き当りの部屋へはいると、七、八人の試験官の眼がいっせいにじろりと来た。
(おおぜい居やがる)ぱっと眼の前が燃えてもう少しでお辞儀をするのを忘れるところだった。周章てて頭を下げ、二、三歩進んだ拍子に椅子に打っ突かってしまった。
(俺らしい失敗《へま》だ)と、もう自分にも腹を立てて、どすんと音を立てて腰掛けた。醜いまでに真赤になっていることが意識された。それが情けなくて、むっとした顔を上げた。その顔を見た途端に一人の試験官
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