は「不採用」とメモに印をつけた。
「なぜ和服を着て来たんですか?」豹一の着流し姿を咎めて、一人が訊いた。椅子へ足の爪先を打っ突けたときの痛みが消えていなかったので、豹一は顔をしかめながら、
「洋服が無かったからです」と答え、(着流しはおもしろくなかったかな?)と思った。
「高等学校の制服はあるでしょうね」
「はあ、しかし、もう学生じゃありませんから」
「なぜ退学したのですか?」
「つまらなかったからです」
「赤じゃなかったんですか?」
「いや、落第したんです」
「理由は?」
「怠けたからです」もはや試験官の誰もが豹一の不採用を疑わなかった。広告文の出来が良くても、中学校から三高へはいった秀才でも、小さな会社ならいざしらず、うちのような大会社ではこういう男は困るのだ。しかし試験官よりも前に、もう豹一は不採用を覚悟していた。
「御苦労でした。結果は追って通知しますから」
丁度正午のサイレンが鳴っていた。三時間待たされたわけだと、豹一は思った。ひどく物腰の鄭重な男に見送られて、廊下を歩きながら、豹一はあの長髪の男はたぶん昼食の時間の済むまでもう一時間待たされるだろうと思った。
一週間経
前へ
次へ
全333ページ中129ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング