。お君に知らさなかった金助も金助だが、お君もまたお君で、
「折角でっけど、そんなもん私《あて》には要《いり》用おまへん」と、質屋の申出を断り、その後家柄のことも忘れてしまった。利子の期限云々とむろん慾に掛って執拗にすすめられたが、お君は、ただ気の毒そうに、
「私《あて》にはどうでも良えことだっさかい。それになんだんねん……」電車会社の慰藉金はなぜか百円そこそこの零細な金一封で、その大半は暇をとることになった見習弟子に呉れてやる肚だった。そんなお君に山口の田舎から来た親戚の者は呆れかえって、葬式、骨揚げと二日の務めを済ませるとさっさとひきあげてしまい、家の中ががらんとしてしまった夜、ふと眼をさまして、
「誰?」と、暗闇に声を掛けたが、答えず、思わぬ大金をもらって気が変になったのか、こともあろうにそれは見習弟子だと、やがて判った。しかし、あくる日になると、見習弟子は不思議なくらいしょげ返ってお君の視線を避けて、男らしくなく、むしろ哀れだったが、夕方国元から兄と称する男が引取りに来ると彼はほッとしたようだった。永々厄介な小僧を世話でしたのうと兄が挨拶したあと、ぺこんと頭を下げ、
「ほんの心じ
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