」佐古は飲めと催促した。豹一は眼をつむって、噛みちぎるように、一気に飲み乾し、グラスを佐古の手に渡した。
「凄い! 凄い! お水は……?」
「結構です」実は欲しかったのだが、わざわざ言われると、持前の負けずぎらいからそう答えざるを得なかったのだ。
 余程悪質のジンだと見えて、急激に廻って来た。豹一は醜態を見せぬ内にと思い、
「お忙しいところをどうも……」ぶらんと頭を下げて、わりに新聞記者らしい言い方でそういうと、ふらふらと「オリンピア」を出て行った。
 出ると、寒い風がさっと来た。肩をすくめた拍子にぐらぐら目まいがして、道頓堀の灯が急に真っ白にぼやけて、視線になだれこんで来た。かと思うと、いきなり遠ざかり、頭の中を赤い色が走った。
 無我夢中で食傷横町の狭くるしい路次を抜け、法善寺の境内にぽかりと出た。凍てついた石畳の上にぽつんとベンチが置かれてあるのを見て、豹一は這うようにして、それに腰を下ろした。途端にげっと吐き気を催した。動物的な感覚がこみあげて来て、豹一はたまり切れずげッ! ばッ! とやった。石畳の上へ吐きだされた汚物からかすかに湯気があがるのを見ながら、豹一は今夜の仕事が未だ残っていることをふと想った。金刀比羅天王の赤い提灯がひっそりと揺れていた。

      四

 夜の一時を過ぎると、気の早い|拾い《バタ》屋が道頓堀通のアスファルトへ手車を軋ませながら、薄汚い姿を現わす。それと前後して、どこから集って来たのか、おびただしい数の自動車が夜中の葬式のようにずらりと並ぶ。カフェの灯がぽつりぽつりと消されて行って、やがてあわただしい暗さがあたりに漂うと、アスファルトは急に凍てついた白さに冴える。そんな暗さの中に最後まで残っていた「オリンピア」の灯も、やがてひとつひとつ消されて行き、ほの暗くなった表口からショールにくるまった女給たちがぞろぞろと出て来て、寒い肩をすぼめていた。ひとり毛皮の外套を着た女がすらりとした長身で、飛ぶように出て来て、五六台並んだいちばん前の車に駆け寄った。
 扉がひらいた。
「さあ、どうぞ!」そう言ったのは、中折を阿弥陀にかぶった佐古だった。
「お送りしまひょ!」その言葉にその女はステップから足をおろした。
「あらいいんですの」村口多鶴子だった。
「まあ、まあ、ちょっとその辺まで送らしとくれやす」そう言って、佐古はいきなり多鶴子の耳に顔
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