か私はむしろ女があわれに思えた。かりに女が不幸だとしても、それはいわゆる男の教養だけの問題ではあるまいと思った。
「何べん解消しようと思ったかも分れしまへん」
解消という言葉が妙にどぎつく聴こえた。
「それを言いだすと、あの人はすぐ泣きだしてしもて、私の機嫌とるのんですわ。私がヒステリー起こした時は、ご飯かて、たいてくれます。洗濯かて、せえ言うたら、してくれます。ほんまによう機嫌とります。けど、あんまり機嫌とられると、いやですねん。なんやこう、むく犬の尾が顔にあたったみたいで、気色がわるうてわるうてかないませんのですわ。それに、えらい焼餅やきですの。私も嫉妬《りんき》しますけど、あの人のは、もっとえげつないんです」
顔の筋肉一つ動かさずに言った。
妙な夫婦もあるものだ。こんな夫婦の子供はどんな風に育てられているのだろうと、思ったので、
「お子さんおありなんでしょう?」
と、訊くと、
「子供はあれしませんの。それで、こうやってこの温泉へ来てるんです。ここの温泉にはいると、子供が出来るて聞きましたので……」
あっ、と思った。なにが解消なもんかと、なにか莫迦にされているような気がし
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