るによって、嘗めやすい。と、まあ、こんなわけだす。いまでも、栄養不良の者《もん》は肝油たらいうてやっぱり油飲むやおまへんか。それ考えたら、石油が肺に効くいうたことぐらいは、ちゃんと分りまっしゃないか。なにが迷信や、阿呆らしい」
女はさげすむような顔を男に向けた。
私は早々に切りあげて、部屋に戻った。
やがて、隣りから口論しているらしい気配が洩れて来た。暫らくすると、女の泣き声がきこえた。男はぶつぶつした声でなだめていた。しまいには男も半泣きの声になった。女はヒステリックになにごとか叫んでいた。
夕闇が私の部屋に流れ込んで来た。いきなり男の歌声がした。他愛もない流行歌だった。下手糞なので、あきれていると、女の歌声もまじり出した。私はますますあきれた。そこへ夕飯がはこばれて来た。
電燈をつけて、給仕なしの夕飯をぽつねんと食べていると、ふと昨夜の蜘蛛が眼にはいった。今日も同じ襖の上に蠢いているのだった。
翌朝、散歩していると、いきなり背後《うしろ》から呼びとめられた。
振り向くと隣室《となり》の女がひとりで大股にやって来るのだった。近づいた途端、妙に熱っぽい体臭がぷんと匂った。
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