よくしなければいけないんです」
すると、女の顔に思いがけぬ生気がうかんだ。
「やっぱり御病気でしたの。そやないかと思てましたわ。――ここですか」
女は自身の胸を突いた。なぜだか、いそいそと嬉しそうであった。
「ええ」
「とても痩せてはりますもの。それに、肩のとこなんか、やるせないくらい、ほっそりしてなさるもの。さっきお湯で見たとき、すぐ胸がお悪いねんやなあと思いましたわ」
そんなに仔細に観察されていたのかと、私は腋の下が冷たくなった。
女は暫らく私を見凝めるともなく、想いにふけるともなく捕えがたい視線をじっと釘づけにしていたが、やがていきなり歪んだ唇を痙攣させたかと思うと、
「私の従兄弟が丁度お宅みたいなからだ恰好でしたけど、やっぱり肺でしたの」
膝を撫でながらいった。途端に、どういうものか男の顔に動揺の色が走った。そして、ひきつるような苦痛の皺があとに残ったので、びっくりして男の顔を見ていると、男はきっとした眼で私をにらみつけた。
しかし、彼はすぐもとの、鈍重な、人の善さそうな顔になり、
「肺やったら、石油を飲みなはれ。石油を……」
意外なことを言いだした。
「えッ?」
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