る限り、百姓どもは喜んで鶏を提出する筈だ。――さては貴様らは俺に鶏を食べさすまいとして、わざと徴発して来なかったのだな」
という言葉の終らぬ内に、例の「痰壺の掃除」乃至「祭りの太鼓打ち」がはじまり、下手すると半殺しの目に会わされるだろうということと、全く同じことを意味するのである。二タス二ガ四ニ相等シイのと同じように「隊長ハ鶏ノスキ焼キガ食ベタイ」「二人ハ鶏ノ徴発ニ赴カネバナラヌ」「徴発出来ナケレバ半殺シニナル」という三つの意味は相等しいのである。
「二時間以内だッ」
この命令に押し飛ばされて、二人はゴムマリのように隊を飛び出すと、泡を食って農家をかけずり廻った。
ところが、二人はもともと万年一等兵であった。その証拠には浪花節が上手でも、逆立ちが下手でも、とにかく兵隊としての要領の拙さでは逕庭がなかった。ことに命令されたことをテキパキ実行できないというへまさ加減では、この二人に並ぶ者はない。おまけに兵隊にあるまじいことには、兵隊につきものの厚かましさが欠けていた。
このような二人には、だから鶏の徴発は頗るむずかしかった。が、よしんば二人が要領のよい厚かましい兵隊であったところで
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