口に呼べませんよ」
「あッ、なるほど、こりゃうっかりしてました。もしもし、じゃ、杉山さんにお言伝けを……。あ、もしもし、話し中……。えっ? 電熱器を百台……? えっ? 何ですって? 梅田新道の事務所へ届けてくれ? もしもし、放送局へ掛けてるんですよ、こちらは……。えっ? 莫迦野郎? 何っ? 何が莫迦野郎だ?」
 混線していた。
「ああ、俺はいつも何々しようとした途端、必ず際どい所で故障がはいるのだ」
 と、がっかりしながら、電話を切ると、暫らくぽかんと突っ立っていたが、やがて何思ったのか、あわててトランクを手にすると、そわそわと出て行った。
 ノッポの大股で、上本町から馬場町まですぐだった。
 放送局の受付へかけつけた時、
「やあ。白崎はん、あんたも来やはりましたか」
 声を掛けたのは、赤井だった。
「やア。到頭トランクの主が見つかった」
 一階の第一スタジオの前のホールで放送の済むのを待っていると、階段を降りて来た演芸係長の佐川が、赤井を見つけて、
「おやッ、珍らしい。赤団治さんじゃありませんか」
 と、寄って来た。色の白い、上品な佐川の顔や、どこか済まし込んだその物の言い方には、赤
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