駅の地下鉄の構内に向いた。
 そして構内に蠢いている浮浪者の群れの中にはいった赤井は、背中に背負っていた毛布をおろしてその中にくるまると、ごろりと横になった。すると、かたわらに顫えていた十位の女の子が、
「おっちゃん、うちも中イ入れて」
 と、寄って来た。
「よっしゃ、はいりイ。寒いのンか。さア、はいりイ」
「おおけに、ああ、温いわ。――おっちゃん、うちおなかペコペコや」
「おっさんもペコペコや。パン食べよか」
「おっちゃん、パン持ったはるのン?」
「うん。持ってるぜ」
「ああ、ほんまに。うちに一口だけ噛らせて」
「一口だけ言わんと、ぎょうさん(沢山)食べ!」
 ほろりとした声になった。女の子は夢中になって、ガツガツと食べると、
「おっちゃん、うちミネちゃん言うねん。年は九つ」
 いじらしい許りの自己紹介だった。
「ふーん。ミネちゃんのお父つぁんやお母はんは……?」
 きくと、ミネ子はわっと泣きだした。
「判った、判った。もう泣きな、泣きな。ミネちゃんが泣くと、おっさんまで泣きとなる」
 しかし、なかなか泣きやまなかった。
「難儀やなア。もう泣きな。おっさんが今おもろい話聴かしたるさか
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