ているせいかも知れなかった。
そう思うと、白崎の眉はふと曇ったが、やがてまた彼女と語っている内に、何か晴々とした表情になって来た。
だから、京都までの時間は直ぐ経ってしまった。
山科トンネルを過ぎると、京都であった。そのトンネルの長さも、白崎にはあっという間に過ぎてしまう短かさであった。
汽車の中は、依然として混雑を極めていた。彼女はやはり窓から降りなければならなかった。
「大丈夫ですか。降りる方がむつかしいですよ」
「でも、やってみます。荷物お願いします」
彼女は窓の上に手を掛けて、機械体操の要領で足をそろえて窓の外へ出そうとした。
「あッ、危い!」
彼女の手が窓からはなれようとした途端、白崎はうしろから抱きかかえた。オーバの上からだったが、彼女の肌の柔かさと、体温がじかに触れるような気がして、白崎の手はやけどをしたような熱さにしびれた。
あわてて手を離した時、彼女の身体は巧くプラットホームの上へ辷り落ちていた。
「どうも、ありがとうございました」
「いやあ、――あ、荷物、荷物……」
赤井と二人掛りで渡して、
「これだけですか」
「はあ、どうも……」
「じゃ、気をつけ
前へ
次へ
全26ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング