―二千円で何を買ったんだ」
「煙草だ」
「見たところよく吸うようだが、日に何本吸うんだ」
「日によって違うが、徹夜で仕事すると、七八十本は確実だね。人にもくれてやるから、百本になる日もある」
「一本二円として、一日二百円か。月にして六千円……」
 私は唸った。
「それだけ全部闇屋に払うのか」
「いや、配給もあるし、ない時は吸殻をパイプで吸うし、しかし二千円はまず吸うかな」
「じゃ、いくら稼いでも皆煙にしてしまうわけだ。少し減らしたらどうだ」
「そう思ってるんだが、仕事をはじめると、つい夢中で吸ってしまう。けちけち吸っていると、気がつまって書けないんだ」
「いっそ仕事をへらしたらどうだ。仕事をへらせば、煙草の量もへるだろう。仕事をしてもどうせ煙になるんだから、しない方がましだろう。百円の随筆を書くのに百円の煙草を煙にしては何にもならない」
 そう理詰めに言うと、十吉は、
「それもそうだな」
 と、ひとごとのように感心していたが、急に、
「あ、そうだ、煙草だけじゃない。たまに珈琲も飲む」
「砂糖がよく廻るね」
「闇屋が持って来るんだが、ない時はサッカリンを使う」
「煙草に砂糖、高いものばか
前へ 次へ
全15ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング