しだ。少し贅沢じゃないかな」
「いや、贅沢といえば贅沢だが、しかしこりゃ僕の必需品なのだよ。珈琲はともかく、煙草がないと、一行も書けないんだからね。その代り、酒はやめた。酒は仕事の邪魔になるからね」
「仕事を大事にする気はわかるが、仕事のために高利貸に厄介になるというのも、時勢とはいいながら変な話だ。二千円ぐらい貯金があってもよさそうなものだ。随分映画なんかで稼いだんだろう」
「シナリオか。随分書いたが、情報局ではねられて許可にならなかったから、金はくれないんだ。余り催促すると、汚ないと思われるから黙っていたがね」
「しかし、汚ないという評判だぜ。目下の者におごらせたりしたのじゃないかな」
「えっ」
解《げ》せぬという顔だったが、やがて、あ、そうかと想い出して、
「――いや、その積りはなかったんだが、はいってた筈の財布にうっかりはいっていなかったりはいっていても、雑誌社から来た為替だけだったりしてね、つい、立て替えさせてしまったんだね。――そうか、そんな風に思われているのか」
不思議そうな顔をしていた。
「へんな老婆心を出すようだが、料理屋なら話して為替で払えばいいじゃないか」
「
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