ゃんは、滅相もないという口つきを見せて、
「何言うたはりまんねん。一ぺん焼かれたくらいで本屋やめますかいな。今親戚のところへ疎開してまっけど、また大阪市内で本屋しまっさかい、雑誌買いに来とくなはれ」と、三ちゃんは既に捲土重来の意気込みであった。そして、私をはげますように、
「織田はん、また夫婦善哉書きなはれ」と言ったので、私は、
「サアナア、しかし、夫婦善哉といえば、あの法善寺の阿多福の人形は助かったらしい。疎開していたから、きっとどこかで無事に残ってる筈だよ。その行方を探す小説を書くかな。いや、それより、地蔵さんの話を書こう思ってる」と言った。すると、三ちゃんは、
「へえ? 地蔵さん? どこの地蔵さんだす」
と訊いたので、私は次のような長い立ち話をした。
B29[#「29」は縦中横]の暴虐爆撃の中で、私が最も憤激に堪えぬのは、彼等が日本の伝統を破壊しようとしていることである。その現われの一つは神社、仏閣へ焼夷弾を落したことだ。大阪の神社、仏閣も相当被害を蒙った。そしてまた、昔なつかしい民間信仰の対象である石地蔵の多くが同じ目にあった。
私は子供の頃からあの大阪の年中行事の一つ
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