梅本さん一家はやはり疎開しようとせず、近くの教会が半焼だったのを倖い、そこを仮の事務所として、その中で一家全部寝泊りしながら町会の事務を取ったり世話をしたりしているのだと説明したあと、
「梅本はんとこは、なんし町会長しやはる位だっさかい、お金は馬に食わすほど持ったはりますし、何もそんな不自由な目エしやはらんと、どこぞ田舎で家買いなはったら良かりそうなもんでっけど、責任があるいうて、一ぺんも家探しに行きはらんと、あないしてずっとあの中に頑張って、町会のことしたはりまんね。よそ[#「よそ」に傍点]とえらい違いだすわ。よそ[#「よそ」に傍点]の町内では、あんた、町会長のズボラな人がいやはるもんやさかい、証明書書いて貰うのに二日も三日も掛る、疎開した田舎から出て来たら宿屋に泊って貰わんならん言うてブツブツ文句言うたはる所もあるいうことでっせ。――あ、先生にお湯も出さんと。今沸かしまっさかい、お白湯《さゆ》でも飲んで行っとくなはれ」
 細君はカンテキでも取りに行くのであろう、防空壕の中へはいり掛けたので、私はあわてて停めて、そして帰ろうとすると、他アやんは、
「えらいお愛想なしだなア。先生、こん
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