まり》に大阪弁のまじった言葉つきを嗤《わら》われながら、そこで三月、やがて自由党の壮士の群れに投じて、川上音次郎、伊藤痴遊等の演説行に加わり、各地を遍歴した……と、こう言うと、体裁は良いが、本当は巡業の人足に雇われたのであって、うだつの上がる見込みは諦めた方が早かったから、半年ばかり巡業についてまわったあげく、到頭飛び出して大阪へ舞い戻った。
 断り無しに持って来た荷物を売りはらった金で、人力車を一台|購《か》い、長袖の法被《はっぴ》に長股引《ながももひき》、黒い饅頭笠《まんじゅうがさ》といういでたちで、南地溝の側の俥夫《しゃふ》の溜り場へのこのこ現われると、そこは朦朧俥夫《もうろうしゃふ》の巣で、たちまち丹造の眼はひかり、彼等の気風に染まるのに何の造作も要らなかった。
 田舎出の客を見ると、五銭で大阪名所を案内してやる……と、寄って行く。そして、市中をガラガラ引き廻しながら、あやしげな名所案内の説明をやり、宿屋へ送りこむと、名所の説明代は一ヵ所五銭だ、六十ヵ所説明してやったから三円くれと、凄むのである。折柄、悪いところへ巡査《ガチャガチャ》が通り掛っても、丹造はひるまず折合ったところ
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