七
おれの目的、同時にお前の宿願はこうして遂に達せられたわけだが、さて、お前は巨万の金をかかえてどうするかと見ていると、簡単に俗臭紛々たる成金根性を発揮しだした。
上本町に豪壮[#「豪壮」は底本では「豪荘」]な邸宅を構えて、一本一万三千円という木を植えつけたのは良いとして、来る人来る人をその木の傍へ連れて行き、
「――こんな木でも、二万円もするんですからな、あはは……」
「――いっそ木の枝に『この木一万三千円也』と書いた札をぶら下げて置くと良いだろう」
と、皮肉ってやると、お前はさすがにいやな顔をした。「諸事倹約」「寄附一切御断り」などと門口に貼るよりも未だましだが、たとえば旅行すると、赤帽に二十円、宿屋の番頭に三十円などと呉れてやるのも、悪趣味だった。もっとも、これは大勢人の見ている時に限った。無論、妾も置いた。おれの知っている限りでは、十七歳と三十二歳の二人、後者はお千鶴の従妹だった。
もとよりその頃は既に身うけされて、朝鮮の花街から呼び戻され、川那子家の御寮人で収まっていたお千鶴は、
「――ほかのことなら辛抱できまっけど、囲うにこと欠いて、なにもわての従妹を…
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