者もなく、南京虫《なんきんむし》と虱《しらみ》に悩まされ、濁酒と唐辛子を舐《な》めずりながら、温突《おんどる》から温突へと放浪した。
しかし、空拳と無芸では更に成すべき術もなく、寒山日暮れてなお遠く、徒らに五里霧中に迷い尽した挙句、実姉が大邱に在るを倖い、これを訪ね身の振り方を相談した途端に、姉の亭主に、三百円の無心をされた。姉夫婦も貧乏のどん底だった。
「百円はおろか五円の金もおまへんわ」
と、わざと大阪弁をつかって、ありていに断ると、姉の亭主は、
「――そうか、そりゃ、残念だ。ここに百円あれば、ぼろい話があるんだが……」
と、いかにもがっかりした顔だった。釣られて、
「――では、何かうまい話でも……?」
と、きくと、実は砂金の鉱区が売物に出ているという。銀主を見つけて、採取するのもよし、転売しても十倍の値にはなるとの話に、丹造の眼はみるみる光り泪一つこぼさず、三味線の心得あるを倖い、お千鶴をしかるべきところへ働きに出した。そして砂金の鉱区を買ったが……。
写していて、よくもまあ、お前という人間のいやらしさにうってつけの文章だと、あきれるくらいだが、さて、そうやって砂金の
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