に世間にも恰好がわるい話だと、おれは随分くさってしまったが、お前ときてはおれ以上、
「――もう、こうなっては、宿の客ひきをするか、どろんをきめるか、どちらかですな」
 と、何ともいいようのない顔で苦り切っていた。
 宿の客ひきもどろんも、どちらもいずれ劣らずお前らしくて似合っていると、おれはおかしかったが、しかし、まさか婆さんの中風がなおるまで客ひきをするほど殊勝なお前でもあるまいと、ひそかに考えていたところ、案の定、ある日、
「――うさばらしに田辺で遊んで来ますよ」
 と、そわそわ出掛けて行ったきり、宿へ戻って来なかった。
 蒸気船の汽笛の音をきいた途端に、逐電しやがったとわかり、薄情にもほどがあると、すぐあとを追うて、たたきのめしてくれようと、一旦は起ち上がったが、まさか婆さんを置き去りにするわけにもいかず、折柄、
「――古座谷はん、済まへんけど、しし[#「しし」に傍点]さしたっとくなはれんか」
 と、情けない声をだした婆さんの方にかまけて、思い止まり、背中にまわっていつもお前がしてやっていたように、存外思い腋の下を抱え起し、尿をとってやった。ごつごつした身体だった。
 それから、
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