て置けば一財産出来ますぞ」
 と、変に凄んだ声でおれに言い言いし、働きすぎて腰が抜けそうにだるいと言う婆さんの足腰を湯殿の中で揉んでやったり、晩食には酒の一本も振舞ってやったりして鄭重《ていちょう》に扱っていたが、湯崎へ来てから丁度五日目、
「――ほんまに腰が抜けてしもた」
 と、婆さんは寝ついてしまった。
 あわてて按摩《あんま》を雇ったり、見よう見真似の灸をすえてやったりしたが、追っ付かず、「どんな病気もなおして見せる」という看板の手前、恥かしい想いをしながらこっそり医者をよんで診せると、
「――こりゃ、神経痛ですよ。まあ、ゆっくり温泉に浸って、養生しなさい。温泉灸療法でもやることですな」
 と、知っていたのか、簡単に皮肉られて、うろたえ、まる三日間二人掛りで看病してやったが、実は到頭中風になってしまっていた婆さんの腰が、立ち直りそうにもなかった。
「――これももと言うたら、あんたらがわてをこき使うたためや」
 と、おかね婆さんは大分怪しくなって来た口調でぼそぼそぼやく[#「ぼやく」に傍点]し、宿や医者への支払いは嵩む一方だし、それに、婆さんに寝込まれているのは「医者の不養生」以上
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