の七字を躍らすなど、われながらあやしい装立ちだった。が、それで気がさすどころか、存外糞度胸ができてしまって、まるで村芝居にでも出るようなはしゃぎ方だった。
 お前もおれも何思ったか無精髭《ぶしょうひげ》を剃《そ》り、いつもより短く綺麗《きれい》に散髪していた。お前の顔も散髪すると存外見られると思ったのは、実にこの時だ。
 おれは変にうれしくなってしまい、「日本一の霊灸《れいきゅう》! 人ダスケ! どんな病気もなおして見せる。▽▽旅館へ来タレ」とチラシの字にも力がこもった。チラシが出来上がると、お前はそれを持ってまわり、村のあちこちに貼りつけた。そして散髪屋、雑貨屋、銭湯、居酒屋など人の集まるところの家族には、あらかじめ無料ですえてやり、仁の集まるのを待ち構えた。
 もし、はやらなければ、宿賃の払いも心細い……と、口には出さなかったが、ぎろりとした眼を見張ってから一刻、ひょいと会場の窓から村道の方を覗くと、三々伍々ぞろぞろ歩いて来る連中の姿が眼にはいり、あ、宣伝が利いたらしいとむしろ狼狽《ろうばい》した。
「――婆さん頼んだぜ」
 と、すぐさまおれは「受付」の机のうしろに坐り、そして、来
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