る。と、こう言い切ってしまうと、簡単でわかりやすく、殊勝でもあり、大向うの受けは良いのだが無論それもある。が、それだけでは、新派めいて、気が引ける。ありていに言うと、ひとつにはおれの弥次馬根性がそうさせたのだ。施灸の巡業ときいて、
「――面白い」
と思ったのだ。巡業そのものに、そして、そんなことを思いつくお前という人間に、興味を感じたのだ。お前のような人間に……つまりは、腐れ縁といった方が早い。
「社会奉仕」というからには、あくまで善は急ぐべしと、早速おかね婆さんを連れて、三人で南|河内《かわち》の狭山《さやま》へ出掛けた。
寺院に掛け合って、断られたので、商人宿の一番広い部屋を二つ借り受け、襖《ふすま》を外して、ぶっ通しの広間をつくり、それを会場にした。それから、「仁寄せ」に掛った。
「仁寄せ」などと言えば、香具師《やし》めくが、やはりここはあくまでこの言葉でなくてはならぬ。それほど、なにからなにまで香具師の流儀だったのだ。
だいいち、服装からして違う。随分凝ったもんだ。一行三人いずれも白い帷子《かたびら》を着て、おまけに背中には「南無妙法蓮華経《なむみょうほうれんげきょう》」
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