見苦しい!」
と、直ちに木遁の術……が、しかし何故か思うに任せず、金縛りにかかったようになりながら、ただ阿呆の一つ覚えのように、
「名を名乗れ! 名を名乗れ!」
と、わめいていると、いきなり、
「汝のようなたわけめに、名乗る名を持たぬわ!」
という声が、どこからか聴えて来た。
「あ、先生!」
さすがに、佐助は白雲斎師匠の声を覚えていた。
「――おなつかしゅうござります。佐助でござります」
すると、空よりの声は、
「知っておる」
「お顔を見せて下さりませ」
「たわけめ! 汝のような愚か者に、見せる顔は、持たぬわ!」
「えッ?」
「汝ははや余が教訓を忘れしか」
「えッ?」
「忍術とは……?」
と、いきなり訊かれたので、すかさず、
「忍ぶの術なり」
「忍ぶとは……?」
「如何なる困苦にも堪うる、これ能く忍ぶなり。まった、火遁水遁木遁金遁土遁の五遁を以って、五体を隠す。これまた能く忍ぶなり」
「忍術の名人とは……?」
「能く忍び、能く隠す、これ忍術の名人たり」
すらすらと答えたが、いきなり、
「汝、能く忍んだか」
と訊かれると、もう答えられなかった。
「はッ! あのウ……」
「
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