を道連れとは、ても洒落た道中かな。えいと叫べば、はや五体は宙を飛んで行く。ぐんぐん登れば雷様を下に見る、不死身の強さは日本一の、猿飛佐助の道中だ」
という洒落が出て来ると、もう憂鬱はけし飛んで、得意満面の鼻歌まじりに、大空を飛んで行った。
そして、九州を過ぎ、中国筋を飛び、大坂、京の上空を過ぎて、近江の上空甲賀の山上まで飛んで来た時の佐助は、虚栄心に動かされやすい、青春客気の昂奮に、気も遠くなるくらい甘くしびれていた。
ところが、ふと眼下の甲賀山中から、一筋の妖気の立ちのぼるのを見て、
「はて面妖な!」
と、呟いた途端、
「――あッ」
たちまち飛行の術は破れて、佐助の身体は甲賀山中に墜落して行ったが、さすがに佐助は、地面すれすれの、咄嗟の宙がえりで、危く五体が木ッ葉微塵になるのをまぬがれた。
「ふーむ。わが飛行の術を破ったとは、いかなる妖魔の仕業か。わが術を破り得るほどの者、天下ひろしといえども、わが白雲斎師匠を除いて、ほかにはない筈だが、伊賀流か、甲賀流か、何れにしても手強い奴! 名を名乗れ!」
と、呶鳴りながら、起ち直ったところ、いきなり足をすくわれて尻餠つき、
「ああ、
前へ
次へ
全67ページ中38ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング