蒲団かぶって寝ていたのだと、ぶつぶつ言うと、君枝はぺたりと尻餅ついて、ああ、えらいことになってしもたと、子供心にこたえたようだった。
俥がなくては商売が出来ず、まる二日は魂が抜けたようになって、あちこち探しまわったり、
「ああ、もう焼糞や。焼の勘八、日焼けの茄子や」
と言いながら、畳の上に仰向けになってごろんごろんしていた。
が、三日目の黄昏前、君枝がさすがに浮かぬ顔をして下足の番をしていると、
[#ここから2字下げ、底本では一行目は1字下げ]
「えーうどんの玉ア
あつあつのお玉ちゃん
白い着物《べべ》きて朝から晩まで湯にはいり
つるつるの肌した
別嬪ちゃんのお玉ちゃん
十オあって五銭」
[#ここで字下げ終わり]
と触れ歩いている声がきこえ、よく聴くと他吉の声だった。
もう腰の曲る歳で、荷が重いらしく、声もしわがれていた。
「まいどおおけに」
下足を渡して、客の出たあとより飛んで出ると、他吉はにこにこしながら、
「どや似合うか」
「よう似合《にお》てるわ」
君枝の声に合わせて、種吉も天婦羅あげながら、
「他あやん、おまはんその方がよう似合てるぜ。声もわるないな」
「そやろ
前へ
次へ
全195ページ中95ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング