もう蒲団をかぶって寝ていて、枕元にコンニャクの形の空気草履が並べて置いてあった。
 それでは、お祖父やんはびっくりさせようと思って、わざと日の丸湯へ来ず、枕元に置いて、自分は寝た振りしているのだろうと、君枝は思って、こっそり空気草履を足にひっかけ、部屋の中をあるきながら、
「ああ、良え音するわ、ペタ、ペタ、ペタ、ペタ、この音寝てる人に聴えへんのやろか」
 遠まわしに他吉を起すと他吉は、
「聴えることは聴えるけどな……」
 精の抜けた寝がえりを打って、しょんぼりした顔をふわーっと、蒲団からだした。そして、言うことには、
「――君枝お前は感心な奴ちゃな。文句もいわんと毎日よう動《いの》いてくれる。それやのに、わいはなんちゅうど阿呆[#「ど阿呆」に傍点]やろ。ほんまに子供のお前に恥かしいわ」
「お祖父やん、どないかしたんか。草履買うて釣もらうのん忘れたんか」
「それどころの騒ぎやあるかい」
 他吉は大人に物言うような口調になり、
「――阿呆の細工に、十姉妹追いかけてる隙に、俥盗られてしもてん。えらいことになってしもた。明日から商売でけん」
 だから、日の丸湯へ顔出しする元気もなく、こうやって
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