は叫んで、俥をおっぽり出して、推寺町から大江神社の境内まで追うたが、ふところに君枝に買うてやった空気草履がはいっているのに気をとられて思うように走れず、到頭逃がしてしまった。
 そして、もとの場所へ戻って来ると、俥が見えない。他吉は蒼くなった。
 その夜、他吉は日の丸湯へ来なかった。朝出しなに、
「今日は空気草履買うて来たるぜ。日の丸湯へもって行ったるさかい、待ってや」
 と、言った祖父の言葉をあてにして、君枝はいま来るか、いま来るかと日の丸湯の下足場でちいさな首をながくしていたが、来ず、空しく十二時をきいた。
「お祖父やんのけちんぼ」
 君枝は給料のほか盆正月の祝儀など、収入《みい》りの金は一銭も手をつけず、そっくりそのまま他吉に渡していたが、他吉は黙って受けとり、腹巻きに入れてしまうと、そのうちの一銭、二銭を、玉焼きでも買いイなと出してくれた例しもなく他のことは知らず、金のことになるとまるで人が変ったようになる日頃の他吉の気性を子供心に知っていたから、日の丸湯の暖簾を入れて飛んで帰ると、思わずそんな言葉が出た。
「――嘘ついたら、エンマはんに舌抜かれるし」
 そして、上ると、他吉は
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