、次郎ぼん!」
外は寒かったが、表へ出て見ると、風が走り、次郎の姿はもう町角から消えていて、犬の鳴声が夕闇のなかにきこえた。
しかし、次郎はもう犬をこわがる歳でもなく、間もなく夕刊配達をよして、東京へ奉公に行った。
9
十姉妹が流行して、猫も杓子も十姉妹を飼うた。榎路地の歯ブラシの軸の職人は、逃げた十姉妹を追うて、けつまずいて、足を折り、一生跛になった。〆団治は二羽飼うて、すぐ死なし、二円五十銭の損であった。が、儲けた人も随分多く、谷町九丁目のメタル細工屋の丁稚は、純白の十姉妹を捕えて、一財産つくり、大島の対を着て、丹波へ帰って行ったと、大変な評判であった。
ある日、他吉が口繩坂の上を空の俥をひいて、通りかかると、坂の下から、
「十姉妹や」
「十姉妹や」
声をかさねて、ひとびとがまるでかさなりあいながら、駈けのぼって来た。
「――阿呆な奴らや。なにを大騒ぎさらしてけつかる」
他吉は綿を千切って捨てるように、呟いたが、途端に、他吉のふところへ、追われた十姉妹が飛び込んで来た。
真っ白だ。
咄嗟に手を伸ばしたが、十姉妹はすっと飛び去った。
「しもた!」
他吉
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