なあ、〆さん」
「そや、そや」
君枝はじっとみつめていたが、
「ああ、居たはる、居たはる、お母ちゃん髪結うたはる。お父ちゃんもお母ちゃんも居たはる」
そして、きんきんした声で、
「――わて、もう親なし子やあれへんなア。もう、誰も親なし子や言うて虐めたら、あけへんし」
その日から、君枝はだんだん明るい子になり、間もなく行われた運動会の尋二徒歩競争では、眼をむき、顎をあげて、ぱっと駈けだし、わてのお父ちゃんはマラソンの選手やった、曲り角の弾みでみるみる抜いて一着になった。
他吉は父兄席で見ていて、顔じゅう皺だらけの上機嫌だった。けれど、ふと、
「あの娘はいつも人力車のうしろに随いて走ってるさかい、一等になるのん当りまえのこっちゃ」
という囁きが耳にはいると、他吉は、
「それもそや。どや、わいの仕込み方はちがうやろ」
と胸を張る前に、なにか遠い想いに胸があつく、鉛筆の賞品を貰ってにこにこしている君枝を、くしゃくしゃに揉んで骨の音がするくらい抱きしめてやりたいくらいの、愛しさにしびれた。
ところが、その他吉がその夜君枝に向っていうには、
「お前ももう走りごく[#「走りごく」に傍点
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