ん、構へん。座蒲団みたいなもんいらん。油で汚したらどんならんさかい」
 手を振ったが、結局腰をおろして、
「――ほんまに他あやんええこと言うてくれたぜ。ここでの話やけど、わいもあの子のいいなりにあの子を芸子にして、じつはえらいことした思てるねん……」
 蝶子は器量よしの上に声自慢とはっさい[#「はっさい」に傍点](お転婆)で売ったが、梅田|新道《しんみち》の化粧品問屋の若旦那とねんごろになった。維康《これやす》柳吉といい、げてもの[#「げてもの」に傍点]料理ことに夜店の二銭のドテ焼きが好きで、ドテ焼きさんと綽名がついていたが、
「わてのお父つぁん[#底本では「お父っあん」となっている]も年中一銭天婦羅で苦労したはる」
 と言いながら「志る市」や「壽司捨」「正弁丹吾」「出雲屋」「湯豆腐屋」「たこ梅」「自由軒」などのげてもの[#「げてもの」に傍点]料理屋へ随いて廻っているうちに深くなったのは良いとして、柳吉はひとり身ではなかった。

 知れて、柳吉は中風で寝ているが頑固者の父親をしくじり、勘当になり、蝶子にかかる身体となったが、蝶子も柳吉と暮したさに自ら借金つくって引き、黒門市場のなかの裏
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