長屋に二階借りして、ふたり住んだ。
が、ぼんぼん育ちの柳吉には働きがなく、結局蝶子が稼ぐ順序で、閑にあかせて金づかいの荒い柳吉を養いながら、借金をかえしていこうと思えば、二度の勤めかそれともヤトナかの二つ、勿論あとの方を選んだ。
三味線をいれた小型のトランクを提げて、倶楽部から指定された場所へひょこひょこ出掛けて行き、五十人の宴会を膳部の運びから燗の世話、浪花節の合三味線まで、三人でひきうけるとなると、ヤトナもらくな商売ではなかった。
おまけに、帰りは夜更けて、赤電車で、日本橋一丁目で降りて、野良犬やバタ屋が芥箱《ごみばこ》をあさっているほかに人通りもなく、しーんと静まりかえった中にただ魚のはらわたの生臭い臭気が漂うている黒門市場をとぼとぼうなだれて行くのだが、雪の日などさすがに辛かった。路地まで来て、ほっと心に灯をともし、足も速くなるが、「只今!」と二階へあがって、柳吉の姿が見えぬことがしばしばである。
儲けただけは全部柳吉が使うので、いつ借金がかえせるか見込みがつかず、おまけに柳吉の心が実家と蝶子の間を……
「……あっちイ[#「あっちイ」は底本では「あつちイ」と誤記]行った
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