い出しの帰り廻り道して古着屋の前を通り掛った種吉は、店先を掃除している蝶子の手が赤ぎれて血がにじんでいるのを痛々しく見て、そのままはいって掛け合い、連れ戻した。
「よう辛抱したな。もうあんな辛い奉公はさせへんぜ」
種吉は蝶子に言い言いしたが、間もなく所望されるままに女中奉公させた先は、ところもあろうに北新地のお茶屋で、蝶子は長屋の子に似ず、顔立ちがこじんまり整い、色も白く、口入屋はさすがに烱眼だった。何年かおちょぼ[#「おちょぼ」に傍点]をして、お披露目した。三年前のことである。
が、種吉ははじめから蝶子をそうさせる積りはさらになく、じつは蝶子が自分から進んで成りたいといった時、おどろいて反対したくらい故、他吉がオトラに言った言葉は、一そう種吉の耳に痛かったのだ。
種吉は他吉の家の戸をあけるなり、もう大声で、
「他あやん、さっきから黙ってきいてたら、お前えらい良え気なことを言うてたな」
「藪から棒に何言うてんねん? 羅宇しかえ屋のおばはんみたいな声だして……」
「お前うちのことあてこすってたやろが……」
「どない言うねん? いったい……訳わかれへんがな。――まあ、あがりイな」
「
前へ
次へ
全195ページ中79ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング