って、板の間をすこしでも敲いたりすると、お辰はすかさず、
「人の家の板の間たたいて、あんたそれで宜しおまんのんか」
血相かえるのだった。
「――そこは家の神様が宿ったはるとこだっせ」
芝居のつもりだが、矢張り昂奮して、声に泪がまじるくらい故、相手は些かおどろいて、
「無茶言いなはんな。なにもわては敲かしまへんぜ」
むしろ開き直り、二三度押問答の挙句、お辰は言い負けて、素手では帰せぬ羽目になり、五十銭か一円だけ身を切られる想いで渡さねばならなかった。
それでも、一度だけだが、板の間のことをその場で指摘されるとなんとも、申し訳けのない困り方でいきなり平身低頭して詫びを入れ、ほうほうの態で逃げ帰った借金取りがあった――と、きまってあとでお辰の愚痴の相手は娘の蝶子であった。
蝶子はそんな母親をみっともないとも哀れとも思った。それで、尋常科を卒《で》て、すぐ日本橋筋の古着屋へ女中奉公させられた時は、すこしの不平も言わなかった。どころか、半年余り、よく辛抱が続いたと思うくらい、自分から進んでせっせと働いた。お辰は時々来て、十銭、二十銭の小銭を無心した。
ところが、冬の朝、黒門市場への買
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