久枝は北浜の銀行へ勤めに出て、太鼓の帯に帯〆めをきりりとしめ、赤い着物に赤い鼻緒の下駄で、姉たちとはかけはなれて派手な娘であった。なお、眼鏡を掛けていた。
相手は同じ銀行に働く男で、銀行員といえば、もう飛びつきたい話にはちがいなかった。しかし、同じところで働いていたとすれば、浮いた話ではなかったかと近所の評判も気にされた。
もともと久枝を勤めに出すことは、何かと気がひけていたのである。娘を働かさねばやって行けぬ世帯かと見られることが、随分辛いのだ。だから、同じ銀行で働く男と結婚したとすれば、一層とやかくの噂は避けがたい。
それがおたかにはいやだった。といって、断るには惜しい談だと、いろいろ迷ったあげく、結局義枝の縁組みもせぬうちに久枝をかたづけるわけには行かぬと、これがおたかの肚をきめたのである。
次の縁談があるまで半年待った。
こんどの談は敬吉に来て、先方は表具屋の娘だったから、これも敬吉の意見をきかぬうちに有耶無耶になった。仲人はしかし根気よく三度足を運んだのだった。
が、三度目にはもう、
「こんな年増の小姑のいる家に、誰が嫁に来まっかいな」
と、捨科白して、ばたば
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