本では「く動振り」と誤植]もおたかには充分あったところだが、もはやそんな痛いところを突かれては、おたかの気持はいつものところへ落ち着いて、
「格式が違うことあれしめへんか」
 意固地な声であった。さすがの仲人もむっとした。
 怒った顔二つ暫時にらみ合って、やがて仲人の帰ったあと、勝手元で騒々しい物音や叫声がして、おどろいておたかが出て見ると、義枝と定枝が掴み合い掴み合っているのだ。
 おたかは何か思い当って、はっと胸をつかれ、蒼ざめた途端に、いきなり逆上して、二人を突き離すと、漆喰の上へ転がり落ちたのは、義枝の方だった。そのつもりではなかったが、倒れて見れば、やはり義枝らしかった。
 物音で近所のひとびとがわざとのように駈けつけて来ると、ぴたりと三人は静まりかえった。
 定枝はぷいと出て行った。義枝はおろおろと身体を縮めて忍び泣いていたがやがて座敷へはいると、琵琶をかきならした。それが店の間にもきこえ、客は頭を刈られながら、ふんふんときいた。
 翌日、おたかは近所へ海老のはいったおからを配った。
 半年経って、十九の久枝に縁談があったとき、矢張り義枝をさし置いてということが邪魔した。

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