に固い表情が崩れ、小学校の教員といえば、よしんば薄給にしろまずまず世間態は良いと、素直に考えることが出来た。贔屓目にも定枝の器量は姉の義枝とそんなにちがいはしなかったが、ずんぐりとして浅黒い義枝とくらべて、定枝はややましにすんなりと蒼白く、そういう談があってみれば、いまそれは透き通るように白いと、改めて見直されるぐらいだった。なお、先方は尺八の趣味があるといい、それも何となく奥床しいではないかと、これで纒らねば嘘だった。
仲人は無料の散髪をして帰った。
ところが、纒まると見えて、いざ見合いという段になると、いきなりおたかは断ってしまった。
仲人は驚いたが、怒った顔も見せず、なるほど、姉さんをさし置いて妹御をかたづける法もなかったと筋を通して、御縁は切れたわけでもないと、苦労人だった。
けれども、その言葉は思いがけずおたかには痛く、妙なところで効果があった。
実はもって、おたかには断るほどの理由もはっきりとはなく、強いて娘の見合いの晴れがましさに馴れず臆したのだと言ってみたところで、それでは余りに阿呆らしく小娘めく。仲人ももう一押し押せば、十に一つは動く振り[#「動く振り」は底
前へ
次へ
全195ページ中33ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング