場内がぱっと明るくなって、ひとびとが退場してしまったあと、未だ隅の席にぐんなりした姿勢で残っている薄汚れた白い上衣の老人があった。
「あ、また、居眠ったはる」
 よくある例で、星空を見ながら夜と勘ちがいして居眠ってしまったのかと、係の少女が寄って行って、
「もし、もし、実演はもう済みました。もし、もし」
 揺り動かしたが、重く動かず、顔が真蒼だった。死んでいたのだ。
 四ツ橋で南十字星を見たという〆団治の話を聴いて、君枝が〆団治らの慰問隊を見送りに行った留守中に寝床を這いだして来ていたのか、それは他吉だった。
 上衣のポケットに新太郎がマニラから寄越した色あせた手紙がはいっていたので、身元はすぐ判った。
 他吉の死骸はもとの寝床に戻った。
 枕元の壁の額に入れられたマラソン競争の記念写真の中から、半分顔を出して、初枝がそれを覗いていた。
 他吉の死骸は和やかであった。
 羅宇しかえ屋の婆さんがくやみに来て、他吉の胸の上で御詠歌の鈴を鳴らし、
「他あやん、良えとこイ行きなはれや」
 と、言うと、君枝は寝床の裾につけていた顔をあげて、
「おばちゃんお祖父ちゃんは、言わんでも、もうちゃんと良
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