ウム」
 君枝は言って、赧くなった。次郎とはじめて会うた日のことを想いだしたのである。次郎は今日も築港で仕事していて留守だった。帰って来たら、〆さんがプラネタリュウムへ行ったことを話そうと、君枝はちらと思った。
「それ、それ、そのプラネタリで、南十字星言うもん見せて貰て来てん」
 〆団治が言うと、他吉の眼は輝いた。
 〆団治が帰る頃、他吉はなにを思いだしたか、
「それはそうと、〆さん、マニラへ行たらな、歯抜きの辰いう歯医者を探して昔わいが借りた二円かえしといてんか。この歯を抜いてもろた時の借金や」
 と言い、口をあけて、奥歯を見せたが、息切れして、いかにも苦しそうであった。
「よっしゃ、よっしゃ。歯抜きの辰つぁん[#底本では「辰っあん」となっている]やな」
 〆団治は言ったが、二十何年か前、婿の新太郎がマニラから寄越した手紙で歯抜きの辰はとっくに死んでいると承知している筈だのに、今はこの耄碌の仕方かと、さすがにほろりとした。
 〆団治が帰ってしまうと、他吉は急に精が抜けたようだった。

     10

 二日のち、四ツ橋電気科学館の星の劇場でプラネタリュウムの「南の空」の実演が済み、
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