「〆さん、頭のゼンマイ狂たんと違うか」
 君枝はさすがに看病疲れもなく、こんな訊き方をすると、〆団治は、
「さにあらず。実はやな、わいも○○興業の落語の慰問隊たらいうもんに加わって、南方へ行くことになってん。南は暑いと聴いたさかい、今からこの服装や」
 と、言い、水洟をすすりながら、
「わいの落語も南なら受けるやろ」
 嬉しそうに言った。
「お前みたいな老いぼれのあんぽんたんでも、南方へ行けるのんか」
 他吉は聴いて口惜しがり、
「――どうせマニラも陥落したこっちゃし、マニラへも行くんやろ。うまいことしやがんな」
「一足さきに、えらい済まんなあ」
「何がさきや。わいは飛行機で行くさかい、お前の乗ってる船追い抜いて、お前より早よ着くわい。マニラへ着いたら、他あやんが出迎えに来てへんか、眼のやにを拭いて、しっかり見んとあかんぜ。――ところで、何日出発や」
「明後日《あさって》や」
 〆団治が答えると、君枝は、
「えらいまた急やなあ。お祖父ちゃんが元気やったら、駅まで俥に乗せて、見送ってもろたげるのに……」
 と、言った。
「いや、おおけに。そうなったら、わいも一生一代の人力で、えらい晴
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