ベンゲットを通ると危い、どうぞ自分を道案内にしてくれと、頼みこんだ。
「早いことせな間に合えしまへん。早いとこ飛行機に乗せとくなはれ」
「爺さん、いったい幾つやねん」
 係員は他吉の歳をきいて、もう相手にしなかった。
 すると、他吉はいきなり凄んで、
「お前らでは判らん。話の判るのを出せ。知事は居るのんか、居れへんのんか」
 と、「ベンゲットの他あやん」の姿勢になったが、途端にくらくらと目まいがして、ああこないしている間にもベンゲット道路のあの曲り角をタンクが通る、婿の新太郎の墓は、船に積んだらどこまで行きゃアる、歯抜きの辰に二円かえしといてくれ、マニラはわいの町や、一つには、光り輝く日本国、マニラ国へとおもむいた――他吉はあっと声も立てずに卒倒した。
 医者はもう助からぬと言ったが、次郎と君枝の輸血が効いたのか、他吉はじりじりと生き延びた。
 そんなねばり強さはどこから来たのだろうか。
 執拗に保《も》って二月目のある日、〆団治が次郎の家で臥ている他吉を見舞いに来た。
 ところが、〆団治はついぞ着ぬ洋服を着たのは良いとして、まだまだ寒さが去らぬのに、異様な半ズボンでぶるぶる震えていた
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