波のように潜水服に当って来るのだった。
こうして潜っている間にも、祖父さんはよちよち俥を走らせているのだと、静脈の痛々しく盛り上った他吉の手足が泛び、次郎は、自分ももし、君枝の父親と同じように、祖父さんからマニラへ行けといわれたら、もう断り切れぬだろうと思った。
沈船作業が済んで、大阪へ帰って来ると、間もなくその年も慌しく押し詰り、大東亜戦争がはじまった。
そして、皇軍が比律賓のリンガエン湾附近に上陸した――と、新聞は読めなかったが、ラジオのニュースは他吉の耳にもはいった。
「ああ、今まで生きてた甲斐があったわい。孫も立派にやってる。曾孫も丈夫に育ってる、もう想い残すことはない。わいの死骸はマニラの婿といっしょの墓にはいるネや」
と、他吉は大声で叫びながら、府庁へ駈けつけ、実は自分は「ベンゲットの他あやん」という者で、ベンゲット道路の道案内をする者は自分以外にはない。リンガエン湾附近に上陸した皇軍は恐らくベンゲット道路を通ってマニラへ向うと思うが、自分はあのジグザグ道のどこに凸凹があり、どこの曲り角が向うの崖から丸見えかを知っているのだ、バギオにはアメリカの兵舎があり、うっかり
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