なことをして貰たら困る。それはお祖父ちゃんの葬式金に残しといて」
 次郎が手を振ると、
「げん糞のわるいことを言うな。葬式金を残すようなベンゲットの他あやんや思てるのか」
 他吉は眼をむいた。
「そんなら、マニラ行きの旅費に……」
「知らん土地やなし、旅費はのうても、いざという時になったら、泳いででも行くわいな」
 歯の抜けた顔で笑ったが、他吉はすぐしんみりして、
「――それにこの金の中には、君枝が下足番をして貰た金もはいってるんや。遠慮する金やあれへんぜ」
 他吉はついぞ見せたことのない涙を、ぽたりぽたり落した。

     9

 次郎はやがて退院した。そして、君枝のお産が済む頃には、すっかり元の身体になっていた。生れた子は男の子で、勉吉と名をつけると、
「ベンゲットのベン吉やな」
 と、他吉は悦に入った。
 鶴富組の沈没船引揚げ作業はまだ了っていなかった。
 次郎が電報をうつと、スグコイマッテイルとの返事だったので、喜んで行こうとすると、君枝はもじもじしながら、
「うちも一しょに行くわ。潜水船の喞筒《ポンプ》押しに」
 と、言った。
 次郎は驚いた。喞筒押しは、浅い底の土木工事な
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