て、ああ知らなんだと、にわかに涙を落した。
そして、腹巻きの中から郵便局の通帳を出して来て、言うのには、
「今までこれを何べん出そ、出そ思たか判らへんかったけど、いや待て、今出してしもて、二人の気がゆるむようなことがあったら、どむならん、死金になってしまう――こない思て、君枝の苦労を見て見ぬ振りして来たんやけど、思たらほんまにわいは、ど阿呆[#「ど阿呆」に傍点]やった。君枝に子《ややこ》が出来てるいうこと、さっぱり知らんかったんや。堪忍してや。むごいお祖父やんや思わんといてや。そうと知ったら、君枝を自転車に乗せるんやなかったんや。あんなえらい仕事をしてるのを、黙って見てるネやなかったんや。よう辛抱してくれたな」
他吉ははや啜りあげたが、やがて、かさかさした掌で涙を拭くと、
「――ここに八百円あるねん。この金ここぞという時の用意に、いや、君枝の将来を見届けた暁に、死んだ婿の墓へ詣りがてら一ぺんマニラへ行って来たろ思て、その旅費に残して置いたんやが、もうこうなったら今が出し時や。この金で病院の払いをして、残った分を君枝のお産と、次郎ぼんの養生の費用《いりよう》にしてくれ」
「いや、そん
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